ヴァン・デン・ベルグ著の『病床の心理学』の中に…
「現代人は病気になるとむずかしい患者になるだろうと思われる。病床は、心の準備がいちばん乏しい課題へと彼を追いやるからである。すなわち、肉体の脆(もろ)さと人生のはかなさに直面することの準備である。」
「同じように、現代人は見舞い客としてもあまり好ましい存在とはいえないだろう。なぜならば、現代の健康者は自己保存についての誤った感じ方から、病気についても語る準備ができておらず、自分自身からそうしたことについての思想を排除してしまっているからである。」
これは現代人のメンタリティをみごとに指摘している。
現代は科学や医学が進歩し、私たちはその恩恵を受けている。これはとてもありがたいことではあるが、その代償として、苦しいことや危機に対する精神的・肉体的耐性は失われつつある。
暑ければ冷房、寒ければ暖房、病気になれば医学が治し…、不快なことはすべて科学・医学が排除してくれ、それを当然のように思っている。また、これまで不治と思われた病気も治るようになった。
それはそれで、大変すばらしいことではあるが、しかしそのために、人は
“肉体の脆さと人生のはかなさ”を忘れてしまったし、そういうものに対する心の準備も忘れてしまったのである。
だから、ベルグは「現代人は病気になった時、やっかいな患者になる…」と述べたのである。
『死』を忘れた文化とは、ただ単に人が死ぬことを忘れているという意味ではなく、人生観や価値観に深く影響が出ていることをいう。こうした問題は健康な人にはむしろ生きがいを感じさせているかもしれないが、病気の人・ハンディのある人・社会的弱い立場にある人を逆に苦しめる結果となっている。
病気の人等が病気を受容し精神的な苦痛から解放されるためには、こういう現代の死を忘れた文化を土台にした人生観や価値観から解放されなければならない。
しかしそれ以上に、健康な人が死を忘れた文化を土台にした人生観や価値観から解放されることの方が、はるかに重要である。
そうでなければ、病気の人・ハンディのある人・社会的弱い立場にある人にとってよき隣人となることはできないし、青少年の健全育成や精神的要因と考えられる犯罪の撲滅へとつながらないからである。
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